疲れた人生に夏休みを。「FIREWATCH」レビュー

 人生に疲れたとき、ひとりで自分を知る人の居ない何処か遠くへ行きたくなることがあります。しかし人間というのはとんでもなくワガママにできているもので、本当に一人になると寂しくて仕方がなくなるものです。誰にも会いたくないのに誰かと会いたい。そんなときは顔も見えない誰かと言葉を交わすことが大きな救いになります。
 

 FIREWATCHはそんな人生に疲れた男がワイオミング州にあるショショーニ国有林(実在します)の森林火災監視員として赴任するところから始まります。

なにかから逃げたい人が就く職業、森林火災監視員

 荷物をまとめ、エレベーターを降り、車のドアを開けて新しい職場へと赴きます。任地への道すがら過去を思い出すような形で主人公の半生を振り返っていきます。


 些細な選択肢、あるいは大きな選択肢をいくつか選んでいくうちにプレイヤーは主人公が抱える孤独を共有していくことになります。大筋は変わりませんが、その出来事から何を感じたのかを選択することでプレイヤーと主人公をつなぎます。何から逃げたくなったのか、どうしてひとりになりたくなったのかを体験していくうちにようやく監視塔へとたどり着きます。
 このように本作では様々な選択肢が登場し、それ自体が他のウォーキングシムではあまり見ない魅力になっています。能動的にストーリーに関わることが出来ることの少ないジャンルにあってFIREWATCHは豊富な選択肢によるプレイヤーのストーリーへの介入を推奨する珍しいゲームになっています。

近くの他人より遠くの友人

 このゲームの核となるのが無線通信を使った先輩監視員デリラとの会話です。広大でいながら外部との接触の一切ないこのゲームにおいてほぼ唯一の外界との接触です。ときに真面目に、ときにふざけ調子で繰り広げられる会話はたった数時間のゲームプレイにもかかわらず彼女が本当の友人のように感じるようになります。
 

 森林火災監視員として彼女の命令をこなして行くことでゲームが進行していきます。初日からいきなり森林火災の危機を食い止めるべく花火を打ち上げている馬鹿なティーンエイジャーを追い払ったり謎の人物と遭遇したりとイベント満載です。


 彼らの出したゴミや焚き火を片付けるという気の滅入るような作業も合間に交わされる二人の軽口の応酬は救いになります。まるで洋画のような軽妙なやり取りを聞いていくうちにいつの間にか自分もそういう軽い選択肢を選んでいました。自分の車が酷いと言われたら君の車ほどじゃないさと返してみたり。
 二人の距離感は秀逸で、言い過ぎればきちんと謝り踏み込みすぎそうになるとしっかり引きます。そんな成熟した大人な距離感を保った理知的な会話の応酬がこのゲームの醍醐味になっています。日本語翻訳も秀逸で破綻が全く見当たらない上に情緒を保ったものになっています。

命令者は絶対者ではない

 ゲーム制作論のような話になりますが、ゲームがプレイヤーに何かをやらせたいときには上司キャラを作りプレイヤーをその部下にしたり、冒険者への依頼といったような手法を取る事がよくあります。シューターで言えばCall of Dutyのような戦争モノでは上司の命令であそこにいけ、あれを破壊しろなんて言われることがよくあります。特に上司キャラの場合彼らの言うことは絶対です。命令が下され、マップや視界にマーカーが登場すればそこまで行けば(命令遂行の可否にかかわらず)ゲームは進んでいきます。


 現実ではそんな彼らだって絶対的な存在ではなく迷いもするでしょうしミスを犯すこともあるはずです。FIREWATCHでは歴戦の勇者でも何でも無いただの監視員の女性が命令を出します。間違えることもあれば不可解な自体が頻発してパニックに陥ることもあります。こういった人間臭さの積み重ねがプレイヤーにすら声しか聞こえない相手へ奇妙な友情を感じさせる感覚の源になっています。

地図を片手に歩く美しい大自然



 本作のアートはフォトリアリスティックではなくイラストのようなバランスで仕上がっています。マップも一口に森林保護区と言っても山あり森あり川や湖、谷に洞窟と非常にバラエティに富んだロケーションを有しています。オープンワールドというほどの広さはありませんが、どこをとっても絵になる磨き抜かれた風景が広がっています。川のせせらぎや湖の辺りの水音、様々な動物の鳴き声も非常に質が高く、同じ場所であっても時刻によって様々な表情を見せる風景と相まってまさにこの場所が生きていると感じさせる出来になっています。こういうゲームなら沢山登場しそうな野生動物なんてほとんど出てこないんですけどね。


 プレイヤーは所持しているマップと磁石で自分の行きたい場所へ進むのですが、最初はなかなかうまくいきません。私など「西に行って!」と言われても磁石のEとWのどっちが西かもわからない始末。もちろんマップで見れば左側が西で右側が東だと分かるんですが、EとWになると一瞬考えてしまいます。北がこっちだから右が東で…えーと…今は南を向いているから…。
 ありがたいことに自分の場所とそれまで進んできた足跡は表示されるのですぐに慣れることが出来ます。初めて訪れた場所が少しずつ馴染みの場所へと変わる。そんな少しずつ山に親しんでいくことが嬉しいゲームです。

慌ただしく、少し切ない大人の夏休み


 どんなに振り払おうとしても必ず終わりはやってきます。学生の頃夏休みが終わる8月31日といえばどんな思い出がありますか?いつも通りに過ごす人、宿題を必死に終わらせていた人、いろいろな過ごし方があると思いますが夏休みの出来事を思い出しながら過ごす人も多かったのではないでしょうか。
 夏休みの終わりが静かで少し寂しいのは大人も同じです。嵐のような日々から逃げ出し、逃げた先でも雨に降られた主人公の地面は果たして固まったのでしょうか。この場所で巻き起こった騒動と慌ただしい日々を思い出しながら、人生でたった一度きりのその夏を終えるようにこのゲームも様々な余韻と一抹の寂しさを残して終わりを迎えます。
 FIREWATCHは楽しくて神秘的で慌ただしくて切ない、まるで夏休みそのもののようなゲームです。

 最後に実際に森林火災監視員を追ったドキュメンタリー「The Lookout」を紹介しようと思います。ゲーム中に登場した印象的な監視塔が現実のものをよく再現していることがよくわかるとおもいます。

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