「Wolfenstein: Youngblood」レビュー。ブラスコヴィッチ三部作完結に向けた大いなる実験作



「Wolfenstein: Youngblood」(以下、Youngblood)は一言でいえばシリーズ完結作と噂される「Wolfenstein 3」に向けた実験作だった。残念ながら幾つかの点で失敗している部分も見受けられるが、スピンオフタイトルらしく新たな挑戦に満ちた作品だ。

協力プレイの導入と、それに合わせたキャラクターアップグレードシステムの刷新、Arkane Studiosと協力したことで生まれた新たなステルスプレイや「Wolfenstein II: The New Colossus」をもう一歩推し進めたハブマップ、クエストシステム。
 すでに世間での評価はさほど高くない(そしてユーザーレビューは悪い)というところに固まりつつあるが、Machine GamesがArkane Studiosと組んでやりたいと考えたことはしっかりとプレイヤーに伝わってくる。
このレビューでは「Youngblood」の挑戦における成功と失敗を重点的に洗っていきたい。

残念ながらSteamでは「Youngblood」を一緒にプレイしてくれる友達までは売っていなかったため、本稿はシングルプレイでのレビューとなる。 

プレイヤーの行動の制限をできるだけ取り払おうとした新スキルシステム


「Youngblood」の巷での批判点のひとつが、経験値とスキルポイント制のRPG化とそれに伴うマップ攻略の自由度低下だ。前者に関しては、私はむしろ逆だと考える。特に経験値から得たスキルポイントを自由に割り振れるシステムは、これまでのシリーズに比べても攻略の自由さを格段に上げたと評価する。

「Wolfenstein II: The New Colossus」のPerkシステム

これまでのシリーズは経験値システムはなかった。なかったが、プレイヤーは特定の行動を取ることでキャラクターのアップグレードを行う事ができた。HPが満タンのときに回復アイテムを取ると上限以上に回復し、緩やかに上限に向かって減少していく。これをオーバーチャージと呼ぶが、このオーバーチャージ中に敵を一定数倒すとHPの上限がアップするというような具合だ。

特定の行動を取らなければ欲しいスキルが取れないというのは、せっかくのアクションFPSを台無しにしかねない要素だと考えていた。よって、好きな行動を取りながら得られる経験値とスキルシステムは妥当な進化だと思える。
序盤はステルスプレイで安全に進めてスキルポイントを稼ぎ、HPやアーマー、武器にスキルを割り振って後からランボープレイに転向するといったことも可能だ。

ただし、問題点もある。敵にもレベルが設定されており、プレイヤーはレベルアップごとに2%ずつ与えるダメージが上がっていくというシステムだ。最終的にレベル40以上まで上がる為、レベル1と50であれば2倍の攻撃力の差ができる。ここまでRPGにしてしまう必要はなかった。レベル差による戦闘能力の差は小さくなく、サイドクエストに目もくれず一気にクリアするというプレイは難しくなる。
また、スキルの振り直しも無い点が問題を根深くしている。ステルスプレイを重視したスキル構成では、強制戦闘で戦うのが少々きつい。逆に戦闘的なスキル構成の場合、前述の通り戦闘の難度がレベル差として如実に変わる。

アーマーによる新たなゲームプレイ


ブラスコヴィッチ姉妹の着込んだアーマーは強力だ。「Youngblood」のステルスは、前作までと比べると格段に楽になっている。クロークによって透明化し、強力なナイフで後ろからぐさり。あるいは、投げナイフで遠くの敵を音もなく始末できる。ステルスキルはレベル差が関係なく、クロークやメックタイプの強力な敵を倒すスキルも序盤にアンロック可能だ。敵の視界に入ればHUD上に報告されるので、ステルスゲームの中ではかなり簡単だ。カジュアルで攻撃的なステルスを楽しみたいなら、このゲームはぴったりだろう。


あまり頭の良くないAIもカジュアルなステルスには向いていると言えるだろう。大型メックやドローンなど、機械系の敵が人間の死体に気が付かない点は特に奇妙だと言えるが、死体を運ぶ能力がない本作ではある程度の妥協は必要だろう。ステルスゲームで敵AIを厳密にしすぎて面白くなることなどありえないからだ。それでも人間タイプの敵は死体を発見する能力はあるため、ある程度タクティカルなステルスは要求される。
一方、ステルス中に敵に見つかった場合は罰の程度が大きく、多数の雑魚敵にまじってかなり硬い大型の敵が複数リスポンして襲いかかってくることも少なくない。ラウドで攻略する場合は、敵が多く湧くことでステルス状態でマップを踏破すると貰えるボーナスを得られない不利を帳消しにするかもしれない。攻撃手段の乏しいステルス重視であれば地獄のような逃亡劇が始まる。


最初からダブルジャンプを使えるため、高低差のあるマップが存在感を増している。特にパリ市街マップは有利な位置を取っての戦闘など、攻撃のオプションが増えているのは間違いない。
特にパリの街を再現したハブマップは、高い場所にある抜け道や屋内への小道も多数用意されており、見た目も鮮やかで楽しい。ただし、敵のリスポーンが早すぎる点は問題だと感じる。せっかく街のナチスを排除したのだから、せめて他のマップに移るまではナチフリーのパリの街を楽しませてほしかった。

新たな戦闘システムは失敗



シリーズ通して言えるが、「Youngblood」の敵もアーマーを着込んでいるためかなり硬い。今回は新たにアーマーゲージが取り入れられ、アーマーも2種類に増えた。それに対応する武器を使えば効率よくアーマーゲージを削れるが、そのためには対応した武器を持ち替えなければならない。

すべての武器に使い道を用意しようとした意図は見えるものの、必ずしもそれが面白い方向には働かなかった。激しい戦闘中に相手のアーマーゲージを確認し、それに見合った武器に交換する手間は驚くほど面倒だ。接近戦ならショットガンやマシンピストル、遠距離ならライフルといった使い分けでも十分だし、人間とメックタイプで使用武器を分けたとしても問題はなかっただろう。
また、ゲージは可能なら色で表現を分けるべきだった。アーマーの差は白い小さな四角か、白い中空の四角というかき分けとなっている。少なくとも見た目ではなくゲージで使用武器を判別しなければならないようには、アクションFPSではするべきではなかっただろう。
これまでのシリーズ同様、強力な武器を使った爽快感のある銃撃戦は健在だけに、もう少しこちらを強調するものであれば評価は大きく変わっていただろう。


クラフトワークと呼ばれる3種類のドア解錠武器があるが、ドアを開けようと思うと大きな音がして敵が警戒態勢に入る。ステルスプレイを許容しない要素はとても不便だ。ミッション目標のタンクやコンピューターを破壊した爆発音には敵は全く警戒しないことも相まってかなり奇妙な塩梅になっている。


武器改良システムは前作と比べてもアップグレード箇所が増え、同じ武器でも個性を強くするアップグレードが可能になった。
アップグレードはRPG風で、同系統のアタッチメントをつければボーナス能力がついたり、照準を変更するだけで銃の精度や弾薬の威力が変わる。この世界では「命中率が上がるシール」がオカルトグッズではなく効果のあるものとして大真面目で売られているかもしれない。
冗談はさておき、武器改造の楽しさは強くなった。欲を言えば、戦闘中にワンボタンで連射重視や精度重視のアタッチメントに変えることができればもっと楽しかっただろう。

FPS史上最も意味不明な地下マップとフラッシュライト


やりたいことが明確で、挑戦の中には成功も失敗もあった「Youngblood」だが、地下マップだけは完全に壊れている。真っ暗なマップでライトを頼りに進むと敵に察知され、使わなければ何も見えない。巡回する敵も何故かライトで暗所を照らすことをしない。フラッシュライトを使わなければ進めないのに、フラッシュライトを使うとうまく進めない。

「No One Lives Forever」のように、2000年にはすでにプレイヤーのフラッシュライトを検知するAIは存在していた。ステルスゲームとしてフラッシュライトのメリットとデメリットを導入することは理解できる。理解できないのは、「DOOM3」もかくやという真っ暗な地下マップとそれを組み合わせたことだ。

かなり分かりづらいが、真っ暗闇の中この司令官は一体何をしているのだろうか

ゲームでは何度か訪れることになる地下マップは、もはややりたいこともわからず、どれだけ好意的に考えても「ナイトビジョンゴーグルが何らかのバグによってアンロックされなかったのだろう」以上の擁護ができない。ちなみに、少しネタバレだがナイトビジョンゴーグルはゲームクリア後にアンロックされる。どうして…。

フラッシュライトで批判を浴びた「DOOM3」ですら、ライトを持つと武器が持てないというのはホラー要素を強調するためだったことが理解できるが、「Youngblood」はFPSの歴史に名を残すレベルで破綻している。果たしてどういった遊び方が想定されていたのか、わかる方はぜひ教えてほしい。

スピンオフらしい低調なストーリー


「Youngblood」のストーリーは、ブラスコヴィッチ姉妹が戦士として覚醒するまでの話だ。あくまでシリーズの主役はブラスコヴィッチであるため、大きく話が進展するわけではない。これまでのシリーズでは血みどろの戦いの中でブラスコヴィッチの情緒的な独白も魅力のひとつであり「Wolfenstein II: The New Colossus」でも少しノリが軽くなりつつも踏襲されていた。
姉妹は大好きな小説の主役になりきったり、ナチスの本部の只中でふざけ合うなど父親とは性格がかなり異なる。初めてナチスを殺したときに大喜びしながら吐いたり、憎まれ口を叩き合いながら強い絆で結ばれている彼女たちの姿は見ていて楽しかった。
 

ストーリーの唐突さも悪い部分ではあるが、特に問題だと感じるのは、レジスタンスの仲間たちの存在の希薄さだ。これまでのシリーズでは本拠地マップではナチスと戦う仲間たちの人間模様を見て回るのも楽しいことだった。しかし、本作では仲間たちはクエストを渡してくれる装置として以上の役割を見いだせない。クエストには仲間の人となりを多少は感じさせるものはあるが、ゲーム終了までに名前を覚えられるキャラクターはいなかった。ゲームの目的だったブラスコヴィッチ捜索の結末も、らしいといえばらしいがパッとするものではなかった。


敵も魅力はほとんどなく、デスヘッドやフラウエンゲルのような恐ろしい敵がいないため、物語を引っ張る動力に欠けている。

相対的に見て、最もキャラが立っていたのは最初に戦うこのボスだろう
魅力的な敵ボスの問題は、間違いなく「Wolfenstein 3」にも関わってくる問題だ。目の前で仲間を殺し悪役らしい壮絶な最期を遂げたデスヘッド、1作目から敵として何度も煮え湯を飲まされたフラウエンゲルのような魅力的な悪役を、「Wolfenstein 3」1作の中で作り上げなければならない。

「Youngblood」は次に繋がる実験作


Machine Gamesの挑戦は完全に成功したとは言い難い。Arkane Studiosがどこまで関わっているかは不明だが、お互いの得意とするゲームプレイがケンカしている部分も少なくない。本作がもし「Wolfenstein 3」としてリリースされたなら大問題だ。しかし、スピンオフならいくらでも挑戦してほしい。
最も危惧していた課金要素だが、蓋を開けてみればせいぜいスキンのアンロック程度でゲームプレイには関係が無い部分にとどまっていた。他の要素もおおよそ次に繋がる挑戦と言えるだろう。

Machine Gamesとシリーズの真価を問うのは「Wolfenstein 3」に譲り、まずは、新たな姉妹戦士の誕生と挑戦的な姿勢を祝福したい。

コメント

  1. 暗闇の中でのステルスは、敢えてフラッシュライトを見させて気づかせる→すぐライトを消して待ち伏せ→HUDを見て敵の位置を推測しマーカーが赤になったらナイフ投げ、で自分はある程度達成してました。(面倒なことには変わりないですが)
    レビュー内にも書かれていますが自分が一番気になったのはステルスプレイで突破できないシーンが多いことですね。Deus Ex: Human Revolutionと同じ轍を踏んでしまっていて、Arkane要素を楽しみにしていた自分としてはもっとうまくやって欲しかったな、という印象です。

    返信削除
    返信
    1. コメントありがとうございます。ナイトビジョンゴーグルがエンドコンテンツ扱いとはいえ、後々ちゃんと出てるところがすごくちぐはぐに感じたんですよね。始めから使えて良いのでは?と。私もマーカーの色で敵を識別していましたが、どうしてもそれがゲームとして面白いと思えず…。
      ステルスはおっしゃるとおりDEHRがまさに同じことをやって、しかも再販版でわざわざ修正するほど失敗だった点なので先行作品を研究していてくれれば…と思うことしきりです。

      削除

コメントを投稿

このブログの人気の投稿

シェンムー3へのグチ

『The Quiet Man』は本当に狂気の問題作だったのか。父と子の物語として見ることでわかる言葉を超えた先にあるもの

「Gone Home」で描かれたもうひとつの物語。悪役である父親に焦点を当てるため、もう一度”帰宅”しよう